2016年8月17日水曜日

十二国記 好きな箇所。

小野不由美さんの長編ファンタジー小説。最近、ネットで映画が見られるサイトhuluでアニメ版も始まって、ファンとしてはとても嬉しく思っています。


以前、自立生活センターの事務局長職のお話をいただいてその役職で働き始めた時、とても悩んだ頃がありました。
力量や経験のない私にとっては難しい仕事だったので、この職で過ごさせていただいた数年間はいつも悩んでいましたが、初めの頃は特に悩むばかりでした。
もともと怠け者のところがあるので、仕事に向き合おうとするまで時間がかかったのです。
このような時に、職場の人から教えてもらったのが、この「12国記」でした。

虚空の世界にある12の国の物語。普通の女子高生が一国の「王」になってしまうところから物語は始まります。
ファンタジーの世界だからこそ、作者はリアルな苦しみ、葛藤を書けたのではないかと、ファンとしては勝手に思っています。それほど、「王」になっていくみちは厳しく、また、生きるということの厳しさ、無常さ、自分を知っていくことの大切さを教えてくれます。

ここ数ヶ月、考えることがあり、この本も読み直し、アニメもなんども見ることになりました。
ぶれない視点というのは、こういうことかと思いながら、またこの小説に助けてもらいました。

十数年前に、職を納得するまで勤めてみようと思ったのは、主人公・陽子が王になることを悩んでいた時に、伝えていた、陽子の親友・楽俊の言葉を読んだことによってでした。

「陽子、どっちを選んでもいいが、わからない時は自分がやるべき方を選んでおくんだ。同じ後悔をするなら、軽い方がいいだろう?」

今もこの言葉は胸にあり、心が萎えてしまいそうな時のつっかえ棒のような言葉になっています。

この項では、十二国記の好きなセリフを随時書きたしていこうと思います。

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小野不由美  
十二国記 『月の影 影の海』(講談社刊)から抜粋

「陽子は遠い人だったんだな……」
「わたしは」
「本当なら、おいらが口をきける方じゃねえ。陽子、なんて呼び捨てにも、もうできねえなぁ」
 言って立ち上がる。
「そうとなれば、一刻も早く延王にお会いするのがいい。関弓へ向かうよりも近くの役所に届けたほうが早い。事は国の大事だからな」
 背を向けたまま言ってから、改めて振り返り、陽子を見上げた。
「遠路のことでお疲れとは存じますが、ここならばまっすぐ関弓に向かわれるよりも官に保護をお求めになるほうが早い。延王のご裁可があるまで宿にご逗留願わねばなりませんが、ご寛恕ください」
 深々と頭を下げた姿が悲しかった。
「わたしは、わたしだ」
「そういうわけには」
「わたしは」
 ひどく憤ろしくて声が震えた。
「わたしでしかない。一度だってわたし自身でなかったことなんかなかった。王であるとか、海客であるとか、そんなことはわたし自身には関係ない。わたしが、楽俊とここまで歩いてきたんだ」
 楽俊はただ俯いている。丸い背が、今は悲しい。
「どこが違う。何が変わったの。わたしは楽俊を友達なのだと思ってた。友達に豹変されるような地位が王座なんだったら、そんなもの、わたしはいらない」
 小さな友人の返答はない。
「そういうのは差別っていう。楽俊はわたしのことを海客だからといって差別しなかった。なのに王だと差別するのか」
「……陽子」
「わたしが遠くなったんじゃない。楽俊の気持ちが、遠ざかったんだ。わたしと楽俊の間にはたかだか二歩の距離しかないじゃないか」
 陽子は自分の足元から楽俊の足元までに横たわった、わずかな距離を示した。
 楽俊は陽子を見上げる。前肢が所在なげに胸のあたりの毛並みをさまよって、絹糸のような髪がそよいだ。
「楽俊、違う?」
「……おいらには三歩だ」
陽子は微笑う。
「……これは失礼」
楽俊の前肢が伸びて陽子の手にちょこんと触れた。
「ごめんな」

☆☆☆
「卑屈になって言っているんじゃない。根拠のない不信なら卑屈と言われても仕方ないけれど、わたしの不信に根拠がないわけじゃない。わたしはこちらで、たくさんのことを学んだ。その最たるものが、平たく言えば、わたしは莫迦だということだ。」
「陽子」
「自分を卑下して満足してるんじゃない。わたしは本当に愚かだった。そんな自分をわかって、やっと愚かでない自分を探そうとしてる。これからなんだ、楽俊。これから少しずつ努力して、少しでも、ましな人間になれたらいいと思っている。ましな人間であることの証明が、麒麟に選ばれて王になることなら、それを目指してもいいかもしれない。でも、それは、今のことじゃない。もっとずっと先の、せめてもう少し愚かでない人間になってからのことだ」
  ーーー中略ーーー
「ましな人間になりたいんだったら、玉座について、ましな王になれ。それがひいては、ましな人間になるってことなんじゃねえのかい。王の責任は確かに重い。いいじゃねえか。重い責任て締め上げられりゃ、さっさとましな人間になれるさ」
 ーーー中略ーーー
「あのなぁ、陽子。どっちを選んでいいか分からないときは、自分がやるべきほうを選んでおくんだ。そういうときはどっちを選んでも必ずあとで後悔する。同じ後悔するなら、少しでも軽いほうがいいだろ」
「うん」
やるべきことを選んでおけば、やるべきことを放棄しなかったぶんだけ、後悔が軽くてすむ」
「うん……」
頬を軽く叩いてくれる掌が暖かい。
「おいらは陽子がどんな国を造るのか見てみたい」
「……うん。ありがとう……」

☆☆☆

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